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弁護士コラム

2015年8月20日 (木)

お墓の承継者は誰か?いない場合どうするの

少子高齢化社会、核家族化の影響でしょうか。死後事務やお墓に関する相談を受ける機会が多いように思います。今回はお墓の承継に関してよくある悩みをとりあげます。

●お墓の承継者は誰か?
 お墓という性質上、それを建てた方や管理している方自身がそこに入ることが多いですが、その後誰がそれを引き継ぐのかという問題が常に生じます。生前お墓守をしていても自分自身が入った後に誰も引き継いでくれなければ意味がありません。

 この点、民法では以下の通り規定されています。
民法897条
1 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

1項にある「前条」とは、民法896条「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」ですから、お墓の承継は相続の対象となるわけではないということです。
もっとも、民法897条1項の後段でも示されているように、被相続人が指定できるとあるので、その限りでは相続に近い部分もあるといえます。それ故に遺言書において「祭祀承継者は〇〇〇とする」と記載する例も多くあります。問題はそのような指定がない場合ですが、民法は「慣習に従って」としています。
「慣習」?何だそれは?と思われる方もいるかもしれません。確かに曖昧です。慣習は文字通り慣習なので、何かに明記されたルールとは異なります。家や土地にもよりますが、いわば何となく代々行ってきた例にのっとりましょうというということです。実際何となく長男、何となく名前を継いでいる親族という家が多いように思います。
ただ、お墓を承継するということはお墓の管理方法について決定する権利を持つということでもありますが、管理費を支払ったり、事実上お寺などから求められるお布施を負担したり、法要をとりしきる負担も負う(お墓の承継者の絶対的義務というわけではないですが)ということです。それに見合う経済的精神的余裕がない方が承継したとしても十分にお墓を守れないということも生じ得ます。その意味でも、できれば被相続人が生前に諸々のバランスを考えて承継者を指定しておくというのがよいでしょう。

●お墓の承継者がいない場合はどうするの?
被相続人の指定や慣習により、承継者が決まればいいですが、現実には子供がいない、いても経済的・物理的に無理、その他諸事情により承継する者がいないということは珍しくありません。民法897条で家庭裁判所が定めるともありますが、承継しようとする者が誰もいない時に職権で決めてくれるわけでもありません。管理の負担を強いることは誰にもできないのです。
この場合、お墓がどうなるのかについては、墓地や霊園の規則によることになります。多くの場合は無縁仏として整理され、最終的にはお墓も撤去され、合葬(共同墓地に入るなど)されることになるでしょう。縁故者(例えば友人など)の立場で、それは忍びないということで、承継を名乗り出ることもできますが、墓地や霊園によっては親族でないことを理由に容易に承諾しないこともあります。いずれにしても交渉が必要です。
また、古いお寺や墓地によっては、そのような規則がないこともあります。その場合はまた「慣習」という曖昧なもので運用されることになりますが、やはり最終的には墓が撤去され、合葬されることが多いでしょう。
ただ、お寺や墓地側としては、この場合お墓の整理、すなわち改葬となるので、墓地、埋葬等に関する法律施行規則第3条に従い、縁故者などに対して、1年以内に申し出るべき旨を官報に掲載するなど所定の手続きを経た上で、自治体の許可を得なければなりません。いうまでもなくこれはお寺や墓地などにとっては負担です。それ故に承継者がどのような人か、きちんと管理してくれるのか、その後はどうなのかということが大きな関心事になってくるわけです。
今は、予め将来に向けた永代供養や合祀の約束をしておく、共同墓地に最初から入れる、負担を軽くするためにロッカー式の納骨堂を利用する等、供養の仕方も多様になっています。無縁になってしまう前に、供養する側とされる側でコミュニケーションをとり、お互いが安心できるような方法について話し合いをすることが何より大事です。

(亀井真紀)

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2015年8月19日 (水)

障害者支援施設

最近、立て続けに、障害を持った方のご相談を受けています。正確にはご家族の方からとなります。

 現在の法律では、障害を持った18歳以下の児童については、児童福祉法の適用があり、福祉型障害児入所施設に入所し、18歳以上の障害を持った方は、障害者総合支援法に基づく生活介護及び施設入所支援による入所となります。

 ただ、この法律の適用が年齢によって変わるということは、子供のときから障害を発症して、長く施設に入所している方に取っては、とても分りにくく困惑するものになっています。

 ご相談に見えた二件とも、お子様は、もう既に30歳を超えておられます。子供の頃には、親のコントロールが可能であったものが、もう身体も大きくなり、力も強くなり、親が押さえることが出来なくなっています。 知的障害は、改善することもあるようですが、悪化するときには、保護者が自宅で面倒を見ることは不可能な状態になることが多いようです。

 ところが、現在のようになったのは、平成24年4月1日施行の法改正によるものなのですが、それまでは、児童のうちに施設に入所していれば、そのまま成年になっても、同じ施設に入所を継続していられたものが、法改正によって、18歳を超えたら、福祉型障害児入所施設を出て、障害者支援施設を探して移らなければならないことになりました。

 このことにより、保護者は新たな悩みを抱えることになりました。高齢者支援施設でも起きている問題がここでも発生しています。18歳になってあらたな障害者支援施設を探しても、どこの障害者支援施設も希望者であふれ、なかなか入れる施設が見つかりません。

 さすがに次の施設が見つからないときでもすぐに追い出されることは無いようですが、平成30年3月31日には、経過措置の期限が来ます。

その期限が来ても入れる施設が見つからないときには、どうしたらいいのでしょう。

 保護者や障害を持った方たちは、追い詰められています。

 このように施設に置いて貰えなくなるかもしれないという心理状態の中では、預かって貰うだけで有り難いという気持ちになり、施設の支援の仕方について、不服をいうことはなかなか出来ないものです。

 多少の怪我、多少のミスについて、施設に文句を言う人は、本当に少ないのだと聞きました。

 でも、お話しを聞く限り、施設が完璧な支援、介護を行なっているとは思えないケースがあり、それでもやれる限りはやってますという専門家とは思えない言葉が返って来ます。「何回言っても言うことを聞かないのです。」って、彼に理解する能力はあったかな、

 誰かが勇気を持って訴えることをしなければ、障害者支援施設の改善は期待できないのではないかと相談者は言います。

 そのとおりだと思います。でも、七生福祉園溺死事件を見ても、施設および施設職員がどうあるべきだったのかの立証は、なかなか専門外の者には難しそうです。またまた勉強の日々が続きます。

 ちなみに、当職の近況と映像が下記に載っています。
  よろしければ、どうぞ見てください。
   

http://www.bengo4.com/other/1146/1305/n_3344/


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2015年8月17日 (月)

マタハラ(マタニティ・ハラスメント)2

イタリアの航空会社の元契約社員の日本人客室乗務員が妊娠を理由とする雇い止めが違法であることを理由に雇用継続を求める訴えを提起したようです。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H96_X20C15A6000000/

 また、今年6月24日にはマタハラで係争中の女性5名が記者会見を行い、法整備によるマタハラの根絶を訴えています

マタハラを巡る係争は、秋田では平成25年から平成26年にかけて1.5倍に増加したようです。

 また、鳥取でも平成25年から平成26年にかけて前年比で4割増加したとのことです(https://www.nnn.co.jp/news/150628/20150628004.html)。

 全国的な統計に触れたことはありませんが、係争事例の増加は全国的な傾向ではないかと思われます。

 女性の活躍を進める意味でも政府はマタハラの防止に向けて法整備を検討しています。

ただ、現在の法律でもマタハラには相当程度対抗することができますし、政府もマタハラの防止には力を入れています。

 例えば、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「男女雇用機会均等法」)9条3項は、
 

「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと…を理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」

と明記しています。

 特に解雇に関しては、男女雇用機会均等法9条4項で、

「妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。」

と非常に強い規制がとられています(ただし、妊娠・出産等を理由とする解雇でないことを事業者が証明した時は別です)。

不利益取扱いは解雇に限ったことではなく、雇い止め、契約更新回数の引き下げ、契約内容変更の強要、降格、減給、賞与等における不利益な算定、不利益な配置変更、不利益な自宅待機命令、昇進・昇格の人事考課で不利益名評価を行う、仕事をさせない・もっぱら雑務をさせるなど就業環境を害する行為をすることなど広汎に渡ります。そのことは厚生労働省のHPでも広報されています
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000089158.pdf)。

男女雇用機会均等法に関する通達は平成27年1月にも改正されています。この改正の中では、妊娠・出産、育児休業等を「契機として」なされた不利益取扱いが原則として違法と解されることが明確化されています。女性の活躍を謳う政府の方針や少子化対策もあいまって、マタハラの防止は国が力を入れている領域の一つではないかと思います。

法整備はより良い制度を構築するための不断の努力の延長であって、現行法に致命的な欠陥があるわけではないように思われます。完全無欠というつもりはありませんが、現行法の枠内でも権利を守るためにできることはたくさんあります。報道から読者が現行法に穴があるかのような誤解を受けないかと気になったため、本記事を執筆することにしました。

問題をお抱えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

(師子角允彬)

2015年8月14日 (金)

189-児童相談所全国共通ダイヤル3ケタ化

皆さんは、児童相談所全国共通ダイヤルというものをご存知でしょうか?これは、虐待かもと思った時などに、すぐに児童相談所に通告・相談をすることができる全国共通の電話番号です。児童相談所全国共通ダイヤルに電話をかけると、お近くの児童相談所につながります。通告・相談は匿名で行うこともでき、通告・相談をした人、その内容に関する秘密は守られます。

児童虐待と思われる事態を見聞きしたときは、児童虐待防止法上の通告義務が生じますが、虐待事案のみならず、自分の子育てについての相談などもできるので、積極的に活用して欲しいものです。

これまでも、児童相談所全国共通ダイヤルはあったのですが、10桁の番号で覚えにくく、あまり市民の皆さんに浸透していませんでした。そこで、子供たちや保護者のSOSの声をいち早くキャッチするために、平成27年7月1日より、「189」(いちはやく)という110番や119番のように覚えやすい3ケタの番号に変更されました。

勿論、児童相談所に通告をしたからといって、常に虐待事案が解決するわけではありません。児童相談所で不適切な対応をされてしまうケースもまま見受けられます。

しかし、児童虐待と思しき事態を見聞きしながら、それを放置してしまうと、虐待を受けているかもしれない児童は救われません。

実は、私自身も、児童虐待の現場を目撃して、児童相談所に通告をしたことがあります。その際に、区をまたいだ場合の縦割り行政に辟易したことは事実ですが、現場で対応されている皆さんはとても親身になって対応をしてくれていました。

もし、皆さんが、虐待かもしれないと思うような事態を見聞きした場合や、子育てに悩んでいる友人知人がいる場合、まずは児童相談所全国共通ダイヤルに電話して下さい。
そして、いつそんな事態になるかわかりませんから、まずは「児童相談所全国共通ダイヤル」「189」を自分の携帯電話にでも登録しておくことをお勧めいたします。

2015年7月16日 (木)

大田区議会議員いぬぶし秀一氏に対する抗議と議会に対する申入れをしました

今年は中学校の教科書採択がなされる年です。4年前,大田区の教育委員だった私も当然採択に携わりました。その際の採択で,歴史教科書は多数決の結果育鵬社の教科書に決まりました。

私が推した教科書は別の教科書でしたが,採択自体は公正に行われました。ところが今年の第2回定例区議会の一般質問において,いぬぶし秀一議員は,あたかも私が教科書採択が公正でなかったと言いふらしているかのような発言をしました。

https://www.youtube.com/watch?v=Q4MSkSur-gc&feature=youtu.be (12分01秒~20秒)

これではまるで私が自分の意見が通らなかった腹いせに手続に難癖をつけているかのようです。到底看過することができないので,同議員に対して抗議をし,大田区議会議長に対して申入れをしました。
 申入れの内容は以下の通りです。

申 入 書

拝啓 大田区議会並びに議員各位におかれましては日ごろから地方自治の精神にのっとり大田区民のために尽力されていることと存じ,感謝申し上げます。さてこの度は,去る6月22日の定例会における犬伏秀一議員の一般質問の中に事実に反する誤った発言がありましたので,これに対して事実に反する旨の指摘があったことを議会においてご報告されたく本状をもって申し入れます。

 上記一般質問で,犬伏区議は,育鵬社の教科書の評価について質問を行った際に,「『公正な教科書採択を求める大田区民の会』なる名称の団体が,あたかも前回の教科書採択は公正でなかったかのようなチラシや講演会を開催しており,当時採択に携わった教育委員までが公正でなかったというような発言を繰り返しています。」と述べているのを知り,驚きました。ここにいう「当時採択に携わった教育委員」は私を指すと思われるところ,全く事実に反するからです。

前回の中学校教科書採択のとき,私は大田区の教育委員を務めていました。社会科の歴史教科書について,私は帝国書院を推しましたが,他の委員の方々は全員育鵬社を選ばれたため,大田区の歴史教科書は育鵬社に決まりました。その採択は,教育総務部長が明確に回答された通り,公正を疑われるようなものではなく,どの委員に対しても,どこからも,圧力などがかかることはなく,それぞれの委員がそれぞれの考えで意見を述べ,公正に行われたものでした。私は,自分が推した教科書が採択されなかったことは残念に思いますが,だからと言って採択が不公正だなどと思ったことはありませんし,そのような発言をしたこともありません。

私はその年の12月で教育委員の任期を終え,退任しましたが,その翌年の春に,「公正な教科書採択を求める市民の会(以下「市民の会」と略称します。)」の方から講演の依頼を受けました。
私はこの依頼に対して,「育鵬社に反対したという趣旨ではなく,『中学校教科書を選ぶ時に考えたこと』というテーマでならお受けします。」とお断りして依頼を受けました。
聴衆の中には,どこからか不当な圧力がかかったとか,何らかの画策がされたなどという話を期待した人もいたかもしれませんが,そのような誤解は解きたかったので,「どこからか見えやすい圧力がかかったということはありませんし,制約もありませんし,外からいろんなことを言われることもなくて,各自が考えたところを述べていたという感じです。議論をして結果的には決まったということなんです。」と説明しました。そして,「教育委員がフリーに議論して,その結果そういう風になったということは,世の中全体の雰囲気をよく表していることなのかも知れないという風に思っています。」と述べました。
採択の手続きに関して私が述べたのは以上の事実です。その後何度か教科書の内容についての講演を依頼されましたが,採択が公正でなかったなどということは一度も,一言も言っていませんし,もともとそのようには考えていません。

そして講演の内容の本題は,私が推した帝国書院の教科書と育鵬社の教科書とを比較して,私が帝国書院を推した理由について21か所の記述を例にとり,解説したものです。その解説も適切なものだったと思います。現に,帝国書院が優れている例として挙げた,「ルネサンスを説明するための三美神の変遷の図版」は今回そっくりそのまま,今年の育鵬社の教科書に掲載されました。また,同じく帝国書院が優れている例として挙げたアイヌオムシャの錦絵も,今年の育鵬社の教科書に掲載されるようになりました。さらに,前回の育鵬社には「帝国主義」の語が一言も載っていないことも指摘しましたが,これも,今年の教科書には載ることになりました。育鵬社が私の講演録をご覧になったとは思いませんが,私が指摘した21項目のうち3項目も取り入れられ,改善されているわけです。

 以上の次第ですから犬伏議員の「当時採択に携わった教育委員までが公正でなかったというような発言を繰り返しています。」という発言は全く事実に反するものであるに止まらず,元教育委員である私が事実に反する発言をして教育委員会を貶めているかのような印象を議員各位はじめ広く大田区民に与えるもので,誠に遺憾です。
 よって,犬伏議員の発言が根拠のない誤ったものであることを指摘させていただくとともに,この指摘があったことを議会においてご報告いただきたく,本申入れに及ぶ次第です。
 
末筆ながら大田区議会並びに議員各位のますますのご活躍を祈念いたします。
敬具

(櫻井光政)

デモ活動への警察撮影について

昨日(2015年7月15日)、国会議事堂前で行われていた安保関連法案に反対するデモに、見守り弁護士として参加してきました。これぞ表現の自由という、素晴らしい場でした。

そこで散見されたのが、警察官によるデモ活動の撮影です。
弁護士が違法であることを告げてもなかなか辞めませんでしたが、粘り強く繰り返し抗議し、一人ずつ辞めさせました。

このような撮影行為は、憲法13条の趣旨に反し許されません。記録のためとか、今後のデモのためとか、違法行為が行われそうとか、色々言ってきますが全て許されません。
理由は、以下のとおりです。見かけたときは「撮影は辞めて下さい、判例を知らないんですか」と注意して、このブログを警察官に見せてください。

デモ活動を、【警察が撮影】する行為は、原則として憲法13条の趣旨に反し許されません。例外は、次の1~3の要件を全て満たした場合だけです( 最大判昭和44年12月24日)
※公益目的の報道機関による撮影、一般市民による撮影は別です

1 現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合
2 証拠保全の必要性および緊急性があり
3 その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるとき

まず、現に犯罪が行われなければ、1には該当しません。
そして、周りに多数の警察官がいて目撃しているのが通常ですから、証拠保全の必要性もありません。警察官の調書だけで十分です。もちろん、何も犯罪行為が行われていないところを継続的に広く撮影し続ける行為は違法です。

【該当判旨抜粋】
憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。
 これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法二条一項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。
 そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法二一八条二項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法一三条、三五条に違反しないものと解すべきである。

【判例のリンク】
最高裁大法廷判決昭和44年12月24日(刑集23・12・1625)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/765/051765_hanrei.pdf

(小口幸人)

2015年6月 4日 (木)

不可能を要求する司法~カネミ油症新認定訴訟の顛末

去る6月2日、最高裁は「上告審の受理をしない」決定を出しました。

カネミ油症新認定訴訟裁判のことです。

これまで何度か書いてきましたが、カネミ油症新認定訴訟というのは、昭和43年にカネミ倉庫がダイオキシン類を食用油に混入させるというありうべからざる事故を起こしたことで、九州・西日本で多くのカネミ油症患者が発生しましたが、その被害者が原告となって、加害企業であるカネミ倉庫に対する賠償請求を起こしたものです。本件訴訟の患者たちの多くは、平成14年の認定基準の変更によって認定された「新認定患者」です。カネミ油症患者であることが客観的に明らかになったことで、事故から長い年月が経過した平成20年、ようやく訴訟提起が叶いました。

今回の最高裁の判断は、原審・控訴審の、本件被害は既に除斥期間の経過により請求権を喪失したという判断を維持し、確定させたことになります。

最高裁の判断には、大きな問題点が2つあります。

ひとつには、除斥期間の起算点を昭和44年から動かさなかったことです。

除斥期間というのは、時効に似たものですが、時効と異なり、原則起算点は不法行為時から動きませんし、中断もしません。
しかし、これまでの公害被害、たとえばじん肺訴訟や水俣病、B型肝炎など、裁判所は多くの訴訟で起算点を動かして、被害者を救済して来ました。
じん肺訴訟では、最高裁はその起算点を「最終の行政上の決定を受けた日あるいはじん肺を原因とする死亡の日」としています。つまり、じん肺の被害の発生時自体ははるかに以前のことであっても、行政上の決定を受けた日や死亡時まで起算点をずらして、除斥期間に掛かることを防いできたのです。それは、行政上の決定を受ける前に予め最終被害を申告するということが不可能だからでした。法は不可能を求めないとされてきたのです。

もうひとつは、除斥期間であることに拘泥したことです。

民法724条は、除斥期間を定めたものであるということを前提にこれまで話が進められてきましたが、実は法文上、これが除斥期間を定めたものとはどこにも記載されておらず、また法の起案者は、もともとこの条文を時効のつもりで作成していました。ところが、平成元年の判例以降、解釈としてこれは除斥期間を定めたものであるとされてきたのです。これには強い反対意見が当時からあり、結果、多くの判例で除斥期間であるとすれば悲惨なことになる被害者を救うために、起算点を動かすという技を使わざるを得なくなりました。このような問題を受けて、今年度中に可決される予定の改正民法では、当該条文は時効を定めた条文であると明記される予定だったのです。これが時効であるなら、起算点は動きますし、中断もあります。
しかし、最高裁は、このような流れを一顧だにせず、民法724条は除斥期間を定めた規定であるという判断を維持したわけです。

カネミ油症新認定患者は、油症事件発生以来、多くの病気を次々と発症し、莫大な医療費を支払いながら、お前は油症患者ではない、生まれつきのかたわものであると言われて生きてきました。それは、昔はカネミ油症患者であることを明らかにする、血中のダイオキシン濃度を測る技術が未発達であったことによるものです。水俣病などとも異なり、カネミ油症患者であることの認定は、一般の医師の検査ではできません。年1回の健診を受け、油症研究班の認定を受けることが、唯一絶対の油症患者であることを明らかにする手段でした。

平成に入り、科学技術が追いついてきた結果、平成16年以降、多くの患者がようやくカネミ油症を患っていると認定されました。認定前は、詐病扱いすらされていた患者に、自らが油症被害を受けた者であることの立証は不可能でした。事実、過去には思い余って未認定患者が訴訟を起こしたこともありましたが、患者であることの証明ができないとして、請求は早々に棄却されています。
ところが、今回の裁判所の一連の判断は、結局「認定されていなくても訴訟提起はできたはず」「事実上難しかったというのは理解するけど理論上は可能だったはず」というものでした。司法は、事実上の不可能を要求したのです。

加害企業のカネミ倉庫は、患者への支払が必要だからという理由で、国から保管米を回してもらい、安定収入を得て順調な発展を遂げています(注・カネミ倉庫は認定患者に対しては一部医療費を負担しています)。その一方で、このように多くの患者を闇に葬り、裁判所もこのような不正義を追認したことになります。
司法とは何か、正義とは何か。考えさせられる判決でした。


(石丸文佳)

2015年5月11日 (月)

児童相談所,これではだめだろう

5月4日,相談の電話があった。中学3年の娘が児童相談所に連れて行かれた,娘も帰りたがっているし,私も帰してほしい,という母親からの相談だった。児相に連れて行かれた経緯は,後に知った事実も交えて説明すると以下のようなものだった。

前日夜,酒を飲んで空腹を覚えた父親が料理をしようとした際、サラダ油がないことに腹を立て,物を投げて壊したりして暴れ出した。これに対して娘ははさみを、母親はパン切ナイフを投げて父親と喧嘩になった。ところがこの父親は妻子に対する嫌がらせで110番したから大ごとになった。

このときの父親の対応は最低だが,素の父親は,酒癖は良くないものの,まじめな技術者で,もちろん妻子の身体に暴力を加えたことはなく,娘を大事にしており,親子関係は良好だった。且つ今回の件で反省して直ちに家を出て別居するようになった。

私立の進学校に通っており,成績も非常に良く,皆勤賞を目指している娘はすぐにも家に戻りたかったが,警察官から
「学校なんて行かなくてもいいんだよ」
「勉強なんてしなくていいんだよ」
「君がいるとお母さんの邪魔だから、そばにいることはできません」と言われ、
行きたくないと泣いたのに、無理やり児童相談所に連れて行かれた。

 しかも,警察官は母親に対しては,
「娘さんは、おびえてガタガタ震えて泣いて児童相談所に行きたいと言いました。2か月は出られませんから、その間にアパートを借りて引っ越してください。」と言った。
母親が、「子供を誘導していますね。弁護士を呼んだほうが良い状況ですよね?」
と言うと怒り出し,「このお母さんはダメな人だわ!呼びたきゃ、勝手に呼べ!」
と怒鳴りつけた。それが4日の午前3時から4時にかけてのこと。
勝手に弁護士を呼べと言われた母親が「この時間に弁護士を呼べないですよね?」と尋ねると
「お前の問題だろ!勝手にしろ!」とさらに怒鳴られた。

また娘は学校に行けないと言われたので、「義務教育中です。教育を受ける権利はどうなりますか?」と尋ねると
「学校へは行けません。児相内で勉強させます。学校なんて行かなくても卒業
できる」と言い放たれた。

 警察署で未明まで事情聴取を受けた娘はそのまま児相に身柄を移された。

 児相では、警察の取り調べで一睡もしてない娘にその翌日、マラソン児相敷地内30周、縄跳び500回を命じた。娘は途中で倒れてしまい、30周は走れなかった。足の裏にはマメができ、皮膚がはがれた。
勉強は、中学生ながら既に英検準2級の娘だったが5級以下の内容、数学は小学生がするような100マス計算しかさせてもらえなかった。

児相内の様子はというと、畳敷の部屋がとても汚く,そのためか、廊下で寝ている児童もいる始末。トイレは悪臭がし,その悪臭は浴場でも臭った。トイレは、誰がトイレットペーパーを無駄にしたかわかるようにするため,1人ずつしか行ってはいけないとされた。
トイレットペーパーの使う分量が限られ、トイレ使用時にチェックされるため、娘は便秘になった。

連休明けの5月7日,児相に呼ばれた母親に新人の金澤弁護士が付添った。父親は深く反省し,既に別居が成立している。母子の安全は十分に確保されている。他方娘は帰宅と学校への復帰を希望している。聡明な娘の判断は十分尊重に値する。児童の福祉の観点からも,保護は解除されるべきである旨を訴えた。
その甲斐あってか,娘は翌5月8日に保護を解かれた。早速学校に行くと皆に驚かれた。警察官が学校に,数か月は学校に行けないと連絡を入れていたからだ。

警察の勇み足は,愚かな父親の行動によるところが大きいけれど,それでも母親に対する態度は容認しがたいし,そもそも最も保護されるべき児童の説明をきちんと聞いていないことが問題だ。勉強のできる子どもに,勉強なんか児相でもできると言い放ち,学校にまで,数か月通えない旨の連絡を勝手にしてしまう傲慢さは度し難い。

そして私がもっと腹が立つのが児相の対応だ。一睡もできていない児童に,園庭30週,縄跳び500回を命じるとはどういうことか。体罰ではないのか。また,勉強ができる子どもかどうかは少し話せばわかる。私立中学でもトップクラスの児童に英検5級や100マスはないだろう。このどこが保護といえるのか。
トイレや風呂場がアンモニア臭とは,今時どこの牢獄だ。

児相にはきちんと抗議するつもりだが,物的設備の改善と,優秀な人材の投入が必要だとつくづく感じた次第だ。


(櫻井光政)

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2015年4月 7日 (火)

Nシステムに関する情報開示の訴訟を提起しました

4月6日,司法・交通ジャーナリストの今井亮一さんの代理人として,東京都に対して情報開示を求める訴訟を提起しました。

警視総監はある企業から年間3045万円の契約でNシステムを賃借しています。今井さんがその契約書の開示を求めたところ,警視総監は賃貸人の企業名や賃貸の目的たる機器の数量や機能などを非開示としました。しかし,誰から,どのような性能の物を,いくつ借りたかというのは,都の支出の適正を判断するために不可欠な情報です。

今井さんは東京都公安委員会に審査請求をしましたが,容れられませんでした。そこでこの度司法の判断を仰ぐべく提訴に至りました。

本件は東京都の問題なので特定秘密保護法と直接の関係はありませんが,同法に言う「秘密」のレベルが警視総監の考える「秘密」のレベルと大きく異なるとは考えられません。とすれば,「秘密」の範囲を恣意的に広げられるような運用をさせてはなりません。私は,Nシステムの供給企業名-それは三菱,松下等限られた数社の中の1社でしょう-程度の情報を秘密として非開示にすることを許してはならないと考えます。

以下,興味のある方のために,訴状の骨子を掲載します。

第1 請求の趣旨

 1 警視総監が平成25年8月7日監.総.文.情第3002号をもってなした一部開示決定のうち,別紙非開示部分目録記載の部分を非開示とした部分を取消す
 2 警視総監は,原告に対し,本件非開示部分の開示決定をせよ
 3 訴訟費用は被告の負担とする
  との判決を求める。

第2 請求の原因
 1 本件訴訟提起に至る経緯
 (1)原告は交通及び司法の問題を専門とするジャーナリストである。
 (2)原告は,東京都情報公開条例に基づき,警視総監に対し,平成25年7月25日,「Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)の契約書及び仕様書。最新のもの。」の開示請求を行った。
 (3)これに対して警視総監は平成25年8月7日一部開示決定(以下「本件処分」という。)を行ったが,これには別紙非開示目録記載の非開示部分があり,その分量,内容は多岐に亘る。
 (4)原告はこれを不服として平成25年10月7日,東京都公安委員会に宛てて審査請求を行ったが,同委員会は平成26年10月3日,審査請求を棄却する旨の裁決をした。
 (5)原告は,同月8日裁決書の謄本が原告代理人事務所に送達されたことにより,同裁決があったことを知った。
 2 本件処分の違法
 (1)非開示部分,非開示の根拠規定及び非開示理由については別紙非開示目録記載の通りである。このうち警察職員の「印影」や法人の「印影」については,個人の特定や印鑑の偽造等がなされる危険等について了解可能なものであるし,契約の当否をチェックするにあたって重要な情報ではないから,開示されないことも理解できないではない。
(2)しかし,賃貸借契約の賃貸人を非開示としたことは違法である。そもそも契約の当事者が誰であるかという事実は,契約の根幹をなす重要事項であり,当該契約が公正になされているか否かをチェックするのに不可欠な事項だからである。
    これに対して警視総監は,非開示の根拠規定として東京都情報公開条例第7条4号を挙げ,賃貸人を公開すると「契約相手等が明らかとなり,犯罪を企図する者等による妨害等の対抗措置を容易にするなど,犯罪の予防及び捜査等に支障を及ぼすおそれがあると認められる」ことを非開示理由とするが,このような理由は非開示の理由とはならないものというべきである。
確かに,契約相手が明らかになると犯罪を企図する者がこれに対して何らかの妨害措置を取る蓋然性はゼロではなかろう。しかし,そのような蓋然性がゼロではないという理由で情報の開示を拒めるならば,およそ全ての契約において,相手方の開示を拒否することが可能になろう。そのような運用が,条例第1条に定める条例の目的,すなわち「日本国憲法の保障する地方自治の本旨に即し・・・東京都が都政に関し都民に説明する責務を全うするようにし,都民の理解と批判の下に公正で透明な行政を推進し,都民による都政への参加を進めるのに資すること」に反するものである。第7条4号が,そのようなおそれがあることに止まらず,そのようなおそれを「実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」としているのもそのためである。警視総監の非開示理由は「相当の理由」を欠くものである。
警視総監はまた,非開示の根拠規定として条例第7条6号を挙げ,賃貸人を公開すると「契約相手等が明らかとなり,犯罪を企図する者等による妨害等の対抗措置を容易にするなど,公共の安全と秩序の維持を確保するという警察業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」ことも非開示の理由に挙げるが,このような理由による非開示も条例第1条の目的に反するものである上,第7条第6号の解釈としても,契約当事者の開示が,例示されている事項やこれに類する事項に当たるとは言えないものである。
 (3)また,車両捜査支援システム設置場所一覧表の一部を非開示としたことも違法である。契約において,目的物の数量は重要な要素であって,それなくして契約の適正は判断できないからである。
    これに対して警視総監は,非開示の根拠規定として条例第7条第4号を挙げ,「公にすることにより,車両捜査支援システムの設置場所及び設置台数が明らかになり,その結果,被疑者等が同署を回避する行動をとるなど,犯罪の捜査に支障を及ぼすおそれがあると認められる」ことを理由とする。
    確かに,設置場所の詳細を明らかにすることが,車両を利用した犯罪を企図する者に,逃走経路の検討を許す余地はあろう。しかしそうであれば,設置場所についての詳細ではなく,例えば特別区までの情報を開示すれば良いのであって,位置に関する情報を全て秘密にする必要はない。また,設置台数自体はそれを知られたからと言って犯罪捜査に支障を及ぼすとは到底考えられない。
 (4)上記以外に非開示とした部分についても,非開示としたことは違法である。この部分は車両捜査支援システムの機能,性能に関わる部分であるが,そもそも高額な対価を支払う賃貸借契約において,目的物がどの程度の機能・性能を有するかは重要な事項である。その機能・性能と設置数量との情報があいまって初めて使用料の適正も判断できるものである。
    これに対して警視総監は,根拠規定として条例第7条第4号を挙げ,「公にすることにより,車両捜査支援システムの機能,性能,使用機器等が明らかとなり,その結果,車両捜査支援システムでの検出,照合を妨げるなどの対抗措置を講じられる恐れがあると認められる」ことを理由とする。
    しかしこれについても契約書に記載されている機能や構造の全てを非開示にすべき理由は到底見当たらない。契約書に記載されているレベルの技術情報であれば,それを知っても妨害策を講ずることがさほど容易になるとは考えられないし,仮にそういう詳細な情報が契約書に記載されているのであれば,その部分を選択して非開示にすれば足りるものだからである。
 3 結論
    以上によれば,警視総監がした本件処分は,本件非開示部分を非開示とした点で違法であるから,その取り消しを求める。

(櫻井光政)

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2015年2月12日 (木)

労働者の罹患情報を取り扱うことの適法性-HIV感染症に関する判例を読んで

平成26年8月8日に福岡地裁久留米支部で珍しい判決が言い渡されました。

 HIV感染症に罹患した看護師に対し、本人の同意なく入手した罹患情報に基づいて勤務を休むように指示したことが違法であるとして、病院に対して100万円の慰謝料の支払が命じられました。この金額は訴訟提起後に和解金100万円が支払われていることを考慮したもので、裁判所が相当と認めた慰謝料は200万円にも及びます。

 掲載誌の評釈(判時2239-88)でも指摘されていますが、訴訟提起すると罹患情報が明らかになることが懸念されるため、この種の問題には司法判断を受けにくいという特性があります。そうした観点から、本判決には先例として重要な意味があるように思われます。

 職場におけるHIV問題に関しては厚生労働省からガイドラインが出されていました(基発第75号 平成7年2月20日「職場におけるエイズ問題に関するガイドラインについて」(平成22年4月30日改正))。

 ガイドラインでは、
 

「労働者に対してHIV検査を行わないこと」(2-(3))
 「労働者の採用選考を行うに当たって、HIV検査を行わないこと」(2-(4))
 「HIV感染の有無に関する労働者の健康情報については、その秘密の保持を徹底すること(2-(6))
 「HIVに感染していても健康状態が良好である労働者については、その処遇において他の健康な労働者と同様に扱うこと」(2-(7))
 「HIVに感染していることそれ自体によって、…病者の就業禁止に該当することはないこと」

などが規定されています
http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/hor/hombun/hor1-36/hor1-36-1-1-0.htm)。

 医療法人と看護師という関係の特殊性を考えると別異の解釈も有り得たのかも知れませんが、裁判所はガイドラインの趣旨を尊重する姿勢を貫きました。

 今回はHIVが問題になりましたが、職場で取り扱うことが問題になり得る労働者の疾患はHIVに限ったことではないと思われます。

 例えば、最近ではうつ病などの精神疾患を抱えたまま求職・就労活動に従事する方がそれほど珍しくありません。そうした方の疾患に関するプライバシーを職場としてどこまで尊重しなければならないかは困難な問題だと思います。疾患に関する情報を適切に把握しなければ雇用上のきめ細やかな配慮や顧客に対する適切なサービスが提供できない反面、必要以上に私的な領域に踏み込んで欲しくないとする労働者の思いも法律上十分に尊重されなければならないからです。

 この点に関しても厚生労働省は「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」等の文書を作成して一定の調和点を示しています
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha02/)。

 ただ、このガイドラインに違反するような措置が行われた場合、裁判所でどのような判断がなされるかについて確立された見解はないように思われます。

 HIVに関しては非常に特殊な例だとは思いますが、職場が労働者の持つ疾患に踏み込んで問題になる紛争は今後増えて行くのではないかと思われます。特に精神疾患に関しては、他者に感染する類の疾病ではないこと・疾患を有していることへの偏見が改善傾向にあることから訴訟提起により事実が明らかになることへの抵抗もHIVに比べれば少ないと考えられ、権利意識の高まりとともに司法判断を受ける事案も多くなることが見込まれます。

 理想を言えば、紛争に至る前に厚生労働省のガイドライン等を参考にしながら使用者・労働者のいずれもが納得できるルールを導入し、深刻な事態は未然に防ぎたいところです。事後的な紛争の解決のみならず、紛争の予防も弁護士の重要な業務の一つです。労働者の健康に関するプライバシーと業務上の必要性との調整にお悩みの企業様には、ぜひ一言お声掛けください。お役に立つことができれば嬉しく思います。

(師子角允彬)

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